ある老人の妻が、男に連れ去られた。
 老人は2人の足跡を探したが、2人は岩の上を歩いたので、足跡は見つからなかった。
 そこで老人は、草を集めて紐をつくり、また草をかため、縛って人形をつくった。
 人形ができあがると老人は、人形の肩に、肘に膝に、石斧をとりつけた。こうして老人は〈稲妻の男〉をつくりあげた。
 老人は稲妻の歌をうたい、逃げた2人にこの歌を贈った。
 やがて老人は眠って夢を見た。逃げて行く2人を〈稲妻の男〉が追いかけて行く夢だ。
〈稲妻の男〉は途中、休憩しながら2人を追った。
 2人は狩りに出かけ、捕らえたカンガルーを料理していた。〈稲妻の男〉はそっと2人に近づくと
「ボイ、ボイ、ボイ、ボイ」
 と言って、木ほどの高さになり
「スプッシュ、ライ、ライ、ライ、ディー、ディー、シス、シス、シス、シス」
 とうたいながら2人を引き裂き殺した。そして老人の元へ、2人の心臓と肝臓をもってきた。それから〈稲妻の男〉は空にのぼった。
 これは老人の見た夢だが、〈稲妻の男〉は誰かを切り裂くときにはこの歌をうたうという。