【 昔、あるところに〈ペロリ太郎〉とよばれる若ものがいた。なぜそんな名前がついたかというと、食事の量がとてつもなく多く、1回の食事で10人前、20人前は軽く平らげてしまうからであった。〈ペロリ太郎〉は一日中そうやって食べてばかりいるので、親もしだいに手に負えなくなり、とうとう〈太郎〉を家から追い出してしまった。
 すると、〈太郎〉は、こんどは道を行くすべての人に、食べ物をせがむようになった。いくら食べても〈太郎〉のおなかはいっぱいにならず、〈太郎〉はついに人間の肉まで食ってしまおうと考えた。
 それでいつのころからか、人々は往来で〈ペロリ太郎〉と出会うと、すぐに逃げだすようになってしまったという。
 いくら食べても、きりがない妖怪というのに〈二口女〉がいる。
 この女、ふだんは飯を食わないが、だれもいなくなると、自分の髪を持ち上げて後頭部についている口をぱっくりとあけて、その中に、にぎり飯をぽいぽい放りこむという怪物だった。
 今の世の中は、食料があり余るほどだからいいようなものの、食糧難の時代だったら、こんなのがいたら、たまったものではないだろう。
 江戸時代には《魔除けの巻物》と称する巻物があり、その中に10匹くらいの妖怪が描いてある。ぼくも5、6本見たが、その中にこの〈ペロリ太郎〉も入っていた。しかし、どの妖怪も名前と形の絵だけで、説明はなんにもなかった。昔の画家は、そういったものをかなり描いたらしい。】(『日本妖怪大全』)

 〈ペロリ太郎〉の元絵は、熊本県八代市の松井家に伝わる『百鬼夜行絵巻』に登場する〈べくわ(べか)太郎〉である。
 しかし、〈べか太郎〉についての具体的な記録は残されていない。

[文献データ]
日本妖怪大全_p.408
日本妖怪大全_p.408/魔よけの巻物(巻物)

(べくわ太郎)別冊太陽_日本の妖怪_中沢新一「妖怪と博物学」/百鬼夜行絵巻